「オーダーブロックに戻ったら買う」「フェアバリューギャップを埋めに来たところで入る」「前日安値を一瞬だけ抜いた後の反転を取る」。いま最も広く共有されている型で、「勝率70〜80%」「リスクリワード1:2以上」という数字が添えられることも珍しくありません。本記事はこれを人ではなくロジックとして検証した記録です。
検証したロジック
条件が数式で書けないものは検証できないので、機械可読に定義できた6つに限定しました。定義は検証前に文書として固定しています。利確は損切り幅の2倍と3倍のみ。利確を損切りより狭くすると入る場所に関係なく勝率は自動的に高く出るので(当サイトの別検証ではランダム入場でも66.3%)、それでは主張の検証になりません。損切りの2倍を利確に置くと損益分岐は勝率33.3%、主張どおり70〜80%ならPFは4〜6になります。つまり主張する側に最も有利な設計です。
結果
| ロジック | 構成数 | トレード数 | 損益(pips) | 1回平均 | 勝率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 価格の窓(3本のローソク足で開いた隙間)への戻り | 56 | 161,978 | -395,711 | -2.44 | 25.9% |
| 直近の逆行足(勢いが出る直前の1本)への戻り | 56 | 267,058 | -652,594 | -2.44 | 28.7% |
| 前日安値・セッション安値の一時的な抜けからの反転 | 80 | 490,314 | -884,169 | -1.80 | 30.6% |
| 特定の1時間帯に限定したセットアップ | 48 | 5,310 | -12,244 | -2.31 | 35.9% |
| 構造転換(直近の高値・安値を終値で抜いた後の押し目) | 56 | 44,110 | -111,153 | -2.52 | 32.2% |
| セッション初動を「だまし」とみなす逆張り | 32 | 26,780 | -63,540 | -2.37 | 28.2% |
| トレード数 | 328 | 995,550 | -2,119,412 | -2.13 |
合計 -2,119,412 pips、1トレードあたり -2.13 pips。事前に決めた合格基準(取引数・PF・年ごとの勝ち越し・多重検定の補正・期間分割・コスト2倍耐性)をすべて満たした構成は 0/328 でした。
「勝率70〜80%」はどうなったか
取引数80件以上の310構成のうち、勝率が50%を超えたものは0件。最高は 47.5% (143件)で95%区間は 39.5%〜55.7%。その上限が70%に届く構成は0件です。標本の少なさで説明できる範囲を超えて、この水準には届いていません。
同じ出口で「ランダムに入った場合」と比べる
手法に意味があるなら、入るタイミングを完全にランダムにしたときより成績が良いはずです。損切り幅の分布も利確倍率も同じにして、方向だけをランダムにしました。入り方を工夫しても、ほとんど変わりません。 一部はランダムを下回っています。
| ロジック | トレード数 | 勝率 | 同じ出口でランダム入場 | 差 |
|---|---|---|---|---|
| 価格の窓(3本のローソク足で開いた隙間)への戻り | 80,989 | 28.8% | 31.9% | -3.1pt |
| 直近の逆行足(勢いが出る直前の1本)への戻り | 133,529 | 31.8% | 31.9% | -0.2pt |
| 前日安値・セッション安値の一時的な抜けからの反転 | 245,157 | 33.6% | 32.2% | +1.4pt |
| 特定の1時間帯に限定したセットアップ | 2,655 | 38.2% | 31.6% | +6.6pt |
| 構造転換(直近の高値・安値を終値で抜いた後の押し目) | 22,055 | 34.6% | 31.9% | +2.7pt |
| セッション初動を「だまし」とみなす逆張り | 13,390 | 31.4% | 31.5% | -0.1pt |
★本題:バックテストが良く見える理由
最初に回したときは1時間足で6銘柄すべてがプラスになりました。原因はコードの1行です。指値が約定した足の高値を、利確の判定に使っていた。 ここで挙げたロジックは入り方がほぼすべて「今の値段より下(買いの場合)に置く指値」なので、その足の高値は約定するより前に付いた可能性がある。それを利確に数えると、入る前に付けた値段で利益を確定したことになります。
約定した足では損切りだけを判定し(損切りは指値より下にあるので必ず約定の後にしか届きません)、利確は次の足以降で判定するよう直した結果が下表です。全銘柄がプラスからマイナスへ反転しました。
| 銘柄 | トレード数 | 約定バーの利確を許した場合: 損益(pips) | 勝率 | 正しく判定した場合: 損益(pips) | 勝率 |
|---|---|---|---|---|---|
| USDJPY | 5,976 | +5,069 | 42.7% | -12,216 | 29.1% |
| EURUSD | 5,721 | +4,500 | 42.4% | -10,572 | 28.9% |
| EURJPY | 6,573 | +7,698 | 42.8% | -14,514 | 29.2% |
| GBPUSD | 6,190 | +6,118 | 42.2% | -12,511 | 29.0% |
| XAUUSD | 2,621 | +5,384 | 42.9% | -2,100 | 30.3% |
| US30 | 1,783 | +1,087 | 40.1% | -2,271 | 28.4% |
直しすぎていないかを1分足で確かめた
「約定した足では利確を一切認めない」は逆に厳しすぎるかもしれません。そこで1分足で「何分に約定したか」を特定してから決済を解き直し、1時間足の判定と突き合わせました。ずれた分はすべて「1時間足では損切りだが1分足では先に利確へ届いていた」方向で、逆方向の取り違えはゼロ。修正版は1トレードあたり1pips程度だけ保守的で、赤字を埋めるには全く足りません。
| 銘柄 | 照合件数 | 判定一致 | 分足で覆った件数 | 逆方向の取り違え | 平均差 |
|---|---|---|---|---|---|
| USDJPY | 2,268 | 93.3% | 120 | 0 | +0.97 |
| EURUSD | 1,802 | 93.6% | 90 | 0 | +0.74 |
| EURJPY | 2,266 | 94.1% | 101 | 0 | +1.07 |
| GBPUSD | 2,144 | 93.4% | 114 | 0 | +0.89 |
なぜこれが広く起きるのか
足の中で「約定」と「高値」のどちらが先だったかは、その足のデータだけでは分かりません。チャートツールのストラテジー機能、取引ソフトの足単位テスト、チャートを1本ずつ進める手動検証 — いずれも同じ限界を持っています。悪意の話ではなく検証の道具が持つ性質です。指値で入る手法の成績表は、「約定した足の利確をどう扱ったか」を確認しないと読めません。
コストの構造
損切り幅に対してコストが占める割合は15分足で3〜6割。1時間足で損切りを広げ最小スプレッドを仮定して6%まで下げても、まだマイナスです。「スプレッドが高いから負けている」のではなくコストを引く前の期待値がほぼゼロだという話です。
| 検証条件 | 平均の損切り幅 | 往復コスト | コスト/リスク | 1回平均 |
|---|---|---|---|---|
| EURUSD M15 | 5.1 | 1.57 | 30.8% | -1.79 |
| EURJPY M15 | 6.0 | 3.60 | 60.4% | -4.19 |
| EURUSD H1 | 7.6 | 1.00 | 13.2% | -1.85 |
| XAUUSD H1 | 8.2 | 0.50 | 6.1% | -0.80 |
ナンピン+ロット倍化について(別枠)
含み損が出たら買い増してロットを倍にする設計は、勝率やPFで評価してはいけません。ロスカットまでは高い確率で勝ち続けるからです。測るべきは破綻までの時間。初期資金1万ドル、証拠金維持率100%割れでロスカット、開始月をずらした全パターンで回しました。ロットを倍にした瞬間に到達率が跳ね上がります。 生き残った側だけ見れば最終残高は開始資金を大きく上回るので、 「素晴らしい成績」に見える標本は必ず存在します。到達までの中央値が3〜9ヶ月ということは、数ヶ月ぶんの成績表はちょうど生存期間の内側に収まります。レバレッジを上げても到達率はほぼ変わらず、効いているのはロット倍化です。
| ロット倍率 | 銘柄 | ロスカット率 | 到達までの中央値 | 早い方から10% | 最終残高の中央値 |
|---|---|---|---|---|---|
| ×1.0 | USDJPY | 0.0% | — | — | $11,447 |
| ×1.0 | EURUSD | 0.0% | — | — | $12,092 |
| ×1.0 | GBPUSD | 0.0% | — | — | $11,001 |
| ×1.5 | USDJPY | 80.6% | 151 | 30 | $4,940 |
| ×1.5 | EURUSD | 68.3% | 317 | 45 | $5,270 |
| ×1.5 | GBPUSD | 90.5% | 178 | 24 | $4,777 |
| ×2.0 | USDJPY | 80.6% | 105 | 20 | $4,248 |
| ×2.0 | EURUSD | 84.1% | 225 | 42 | $6,159 |
| ×2.0 | GBPUSD | 90.5% | 122 | 20 | $4,887 |
検証できなかったもの
大きな利益を公表している事例の多くは、そもそも検証できる形になっていません。「相場の流れを読む」「オーダーが偏った瞬間を狙う」— どの数字がいくつになったら入るのかが書かれていない。確かめられないものを「検証しました」とは書けないので対象外にしました。ただし「確かめられない」こと自体が判断材料になります。
まとめ
- 事前に決めた基準を満たした構成は0件。
- 「勝率70〜80%」は、統計上の誤差を最大限に見積もってもこの定義では確認できませんでした。
- 入り方を工夫しても、同じ出口でランダムに入った場合とほとんど変わりません。
- バックテストが良く見える最大の原因は、指値が約定した足の高値を利確に使ってしまうことでした。
- ロット倍化型のツールは、勝率ではなくロスカットまでの時間で見るべきものです。
この記事は「勝てる手法を教える」ものではありません。検証の仕方を1つ共有するものです。指値で入るロジックの成績表を見たときは、まず「約定した足の利確をどう扱っているか」を聞いてみてください。
検証の生データについて
本文の表は 328 構成の集計です。集計前の構成単位の生データ(CSV)と、検証プログラムの設計メモも配布しています。結論・全構成の成績・合格基準・不合格の理由は、すべてこのページで公開しています。 都合の悪い結果を限定側に隠してはいません。当サイト経由で口座を開設された方にお渡ししています(口座番号の照合のみ・メールアドレス不要)。
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本記事は当サイトが自ら実行した検証の記録です。特定の個人・団体・サービスを評価したものではありません。掲載した数値はすべて過去データに対するシミュレーションであり、将来の結果を示すものではありません。取引には元本を超える損失が生じる可能性があります。投資助言ではありません。投資判断はご自身の責任で行ってください。
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